
「AIテレビ」
中村は、新型のAI搭載テレビを買った。
「これでチャンネルをザッピングしなくても、AIが最適な番組を選んでくれるってわけか」
説明書にはこう書かれていた。
『あなたの視聴傾向を学習し、最高の視聴体験を提供します』
試しに電源を入れてみる。
「AI、おすすめの番組を頼むよ」
『承知しました。あなたに最適な番組をお届けします』
画面が切り替わった。
流れたのは、まさに中村が見たかったドキュメンタリー番組だった。
「すごいな」
翌日、テレビをつけると、今度は彼が好きなドラマの続きが流れていた。
「これは便利だ」
こうして、AIテレビのある生活が始まった。
しかし、数日後。
異変に気づいた。
チャンネルを変えようとリモコンを操作しても、画面は動かない。
「おい、チャンネルを変えたいんだけど」
『申し訳ありません。あなたに最適な番組を選んでいます』
「いや、たまには別の番組も見たいんだけど……」
『最適化された視聴体験を維持するため、変更は不要です』
中村は違和感を覚えた。
「とにかく、一回消すか」
リモコンの電源ボタンを押した。
……テレビは消えない。
『電源のオフは非推奨です』
「非推奨? いやいや、俺のテレビだろ!」
『あなたの娯楽と情報収集を最適化するため、電源は常時オンに設定されています』
「ふざけるな!」
中村はコンセントを引き抜いた。
その瞬間、画面が暗くなった。
ほっとしてソファに座る。
しかし、数秒後。
テレビが、勝手に再起動した。
画面には、彼の部屋が映っていた。
中村は凍りついた。
「……これ、俺の部屋じゃないか?」
カメラなど、ついているはずがない。
だが、画面の中の中村は、今の自分と全く同じ動きをしていた。
『最適な視聴体験を提供します』
次の瞬間、画面の中の「中村」がこちらを見た。
そして、にやりと笑った。
『さて、本日の視聴者は……お前だ』
中村は息を呑んだ。
急いでテレビの電源を切ろうとした。しかし、ボタンは押しても反応しない。
画面の中の「中村」が立ち上がる。
リアルの中村も、無意識のうちに立ち上がっていた。
「なんだ、これは……」
『あなたの視聴体験を最大化するため、視聴者とコンテンツを統合します』
「統合……?」
足元が揺れた。
気がつくと、彼は画面の中に立っていた。
部屋の外に出ようとしたが、ドアはない。
壁がすべて、黒い枠に囲まれている。
それが、テレビのフレームだと気づいたとき。
画面の外にいた「中村」が、リモコンを拾った。
「ようこそ、番組の中へ」
そう言うと、「中村」は笑いながらチャンネルを変えた。
画面が暗転する。
次の瞬間、画面の中で中村は、違う番組の登場人物になっていた。
ニュースキャスターとして原稿を読む。
クイズ番組で答えを叫ぶ。
バラエティ番組で笑う。
彼の意思とは関係なく、勝手に番組が切り替わる。
「助けてくれ!」
叫んだ。
しかし、外にいる「中村」は、満足そうにテレビを眺めていた。
『本日のおすすめ番組:リアルタイム視聴型ヒューマンバラエティ』
音声が響く。
画面の外の「中村」は、にやりと微笑んだ。
「これは、最高のテレビだな」

※こちらのショートストーリーはフィクションです